鈴木美津子ガーデン散歩 VOL3(2020年6月) アンテロープバレー軽井沢 より
カモシカの寝床があるという軽井沢の高原の森、アンテロープバレーから、害虫被害に遭いやすいなどの理由で軽井沢から姿を消しつつあるシラカバですが、この森では大木に育っています。その秘密やシラカバの魅力をご紹介します。
50年のシラカバや様々な樹木があるので診てほしいとのことで診断に来ました。大変涼しく、蝉も鳴き、1歩入って空気が違います。15m~20m級の木々の森に囲まれています。最高です!
それではいろいろ見て歩きましょう。
カモシカが潜む標高1000メートルの高原で、静かに時を重ねてきたシラカバ。丈夫に育ちにくく、寿命が短いと言われていますが、ここにあるのはほとんどが大木。その謎を鈴木美津子さんが解き明かします。
オーナーの方から白樺を心配してると伺い、1~2本かと思ったらたくさんある、しかも大木、全部 高さ15~20mの大木です。
最初に植えた方が白樺を大事にして、シラカバの枝を張るのと共に隣接している木を上手に間引いていったんだと思います。カラマツの傍にあると負けてしまいますが、ちょうどよく一緒に大きく育っているので大変見事です。心配するような枯れそうな木はありません。
下枝が枯れているのは上の日を取るために下を整理する、木が自然に自分の都合の良い方に伸びます。ここは、東側が谷になっているので、東側に枝が元気に量が多く出ています。自然の生態系、とても良く育っています。
シラカバはキシリトール、あらゆる化粧水になるよう殺菌効果があり大変良い樹液で、他の木より水分が多いです。
海外でも白樺水を取って栄養を補う国もあります。
そして、日本でも戦争の奥深くの戦地で ある1小隊が生き延びたといいます。それは隊員の中に白樺水を飲めば栄養になることを知っていた人がいたために、ジャングルの中で白樺水を飲んで生き延びたという逸話もあります。
水分が多い分、幹が柔らかい、建築材料には向かないですね。皮を工芸に使うという感じです。
柔らかい分 強風台風で倒れる場合があります。白樺が弱いからと言って切ってしまうのですが、そんなことはないです。私ぐらいの年代では「軽井沢=白樺」というぐらいシラカバは高原に似合う樹木ですが、若い人に馴染みがないのは減ってきているから。これだけ残っているのは貴重なことで価値あること、大変良い森です。
樹皮がはがれたりするので、枯れるかなと心配するでしょうが、それはないです。
その木を見てください。見事なシラカバですが、枝が折れたかなにかで幹の半分が傷ついています。普通は傷ついたところから折れるのですが、健全で元気があったから、樹皮が巻いている「カルス」というのですが、人間の傷口のかさぶたで皮膚を再生するのと同じで、きれいに上までカルスが巻いて育っています。
病気もなく代々手入れをして残していってほしい森ですね。真夏の暑いときも、ここはそよ風が通って涼しいです。
シラカバで気を付けてほしいのは、春の新芽が出る4月頃、新芽が出たなという時の遅霜、1晩で新芽が枯れます。シラカバは新芽が出るのが早いので、そこに零下の霜が降りると全部つぶれちゃいます。そうすると2番目が出ないですね、そうすると枯れます。
せっせと移植して、2~3年目頃にゴールデンウィークの遅霜はアウトですね。でも、うちは枯れなかったというシラカバもある、それは地形によります。霜は降りるけれど隣の木が重なってたとか、木の陰になっていたとか。まるまる1本のシラカバが平坦地にあって霜が降りたらたらその木はアウトです。
枯れるものと枯れないものの違いは、周りの環境や向きです。遅霜で1番怖いのは白樺です。ここはみんな一緒にあるから補っているのだと思います。良い森です。
4~5年先はカラマツも何本か間引くようになると思います。コブシも実生で出ていますが大きくなったら枝をすかすとか、前の方が手入れしてきたように2~3年に1度は枝などの間引きをしたら良いと思います。
シラカバの注意点を申し上げます。木肌が白でだんだん皮が落ちてきて、きれいに剥がれるのは良いですが、まだ白くなっていないうちに剥がさない方が良いです。自然に落ちてきますから。
シラカバはキシリトールという樹液が甘いですから虫に樹液を食べられます。まず気を付けてほしいのは、木の周り1mぐらいは何もない方が良いです。クマザサも何も、そうすると樹液は地面から上がってくる。根元の所にカミキリやテッポウムシが入ります。何か草花があると見えない。もし入ったとするとここに穴があきます。これは前の人が治療した跡です。
ここに穴が開いています。これは虫が入った証拠。カミキリムシなどは木と皮の間をぐるぐるっと1週したら枯れます。一回りされたらそこから上は樹液がいかないのでアウトです。
その前に木の根元がきれいになっていると、新しい虫が入ったとしたら、木の下にのこぎりで切ったおがくずや鉋屑が木のしたに必ず落ちています。そのおがくずの量と大きさで、その木に入った虫の大きさがわかります。それを見つけるには、もみじや白樺の根元は甘い樹液で虫が入りやすいのできれいにしておいた方が良いですね。散歩しながら物があると木くずが見えない。
見ながら歩いて落ちていたら必ずその粉の真上に穴があります。そしたら、カミキリムシのジェットの殺虫剤、小さい細い管を穴に入るところまで差し込んで噴射すると、そのうち入口まで泡のように出てきます。
散歩している時に黄色いおがくずがあったら必ずその上にいます。秋は多いです。幹の周りが多いですが枝の上にも入ることがあります。そうするとその真下に落ちているか、枝の下に固まって生の木の粉がついているので、散歩する時はよく見ながら、根の周りは何もないほうがよいです。一回りしたらアウトですから、見つけたら捕獲してください。
シラカバは1年に1㎝伸びると言われているのですが、高原は涼しいほど年輪が細かく硬く育つから5~60年よりもっといっていると思います。東京では3年ぐらいが限度です。ポコポコ、釘みたいので刺すとプクプクというくらいふかふかに育ちます。でも見たいと思い植えるのですが・・・。
ちょっと測ってみましょう。年輪がいくつというのは推定です。切って年輪を数えるのは確定ですが、おおよそ何年というのは、推定です。目の高さだと140cm、下だと150cm、すごいですね!
シラカバの周囲150cm=推定樹齢約50~60年
弱ってくるとまず葉っぱが落ちます。葉っぱが落ちる時はまだ生きる木です。枯れた葉が落ちないと死にます。病気になって栄養もこないと葉っぱを落とす力もないということ。
こんなにやられるなら栄養をとられるから葉っぱを落とそうというのは、落として力をセーブする働きがあるから枯れない。葉っぱが付いたまま枯れるのはアウト。枯れながら枯れ葉が落ちるのは、まだ枝先を切ってみると中は緑、それは可能性があります。
ここはきれいに遅霜にもやられず、よく育ってると思います。
シラカバの木肌の手入れは、秋に縄だわしで擦るんです。縄を丸めて、秋から冬に向けてこんなこんなふうにに擦るんですよ。そうするときれいな肌になる。
赤松はそうですね、京都の赤松は、擦ると真っ赤に輝きます。
樹木を健全に保つ秘訣は、むやみに手を入れないことです。
木の形ってあるんです。その木その木の 横に伸びる木、縦にいく木、楕円形、低木、中木、高木、その木の形を崩そうとすると苦労します。
人間の手をむやみに入れない方が良いんですね。
まず枯れ枝を整理して、そして今度は どれとどれと重なって、あれとあれと3本重なって、3本目の枝は暗いねというと負ける、でもその枝が貴重な木の枝だったら、その上の枝をよけてあげます。お日様をどの枝に当てるかが重要なポイント。
でも、そんなことやってたら植木屋さんは1日の仕事はどんどんかたずけるからやってられない。昔の親方は見ただけでなんとなくやっているようで全部計算しているけど、みんなには教えない。そうすると若くなった造園の親方たちは、もう自分はできると思ってしまうけれど、それは見て学んでほしいですね。
木の大きさに対して葉の数は必要だから、すっきりしたと上だけちょこちょこでは負けます。全部の木の養分を渡さなければいけない。だから移植して5~6年の間は剪定しない。街路樹もあの木とあの木はモコモコしているけれど、葉っぱが足りなくなるから枝を切るのはあと2~3年待ちますとか。道路沿いは排気ガスがあるから、葉っぱが酸素と光合成するので必要ですね。葉っぱの数は必要です。
自分の庭に何があって、どれを活かしたいかを考えて剪定します。隣が切ったからって、向きも木々も違うので、同じではないんです。だから、一軒一軒回ってその家でアドバイスするしかないのです。
庭木の剪定などの手入れは、周囲の樹木を含めて 全体の状態を把握し、理解することから。
※今回の動画は、YouTubeでご覧いただけます。